みなさん、『DMAT(ディーマット)』という言葉を知っていますか?
何となく耳にしたことがある方や、ニュースの映像で見たことがある方は多いと思います。
DMATとは災害派遣医療チームのことで、“一人でも多くの命を助けよう”という理念のもとに厚生労働省から発足したチーム。日本はとても災害の多い国ですので、このDMATが最近注目を集めています。
私も一度はDMATに憧れこの道を目指そうと決意した時期があったのですが、やむなく断念した苦い思い出があります。私と同様に転職希望者の中には、将来的に災害医療に携わりたい!と考えている看護師もいるのではないかと思い、今回記事にしてみることに。
ということで今回は、DMATについてまとめるとともに「DMATの看護師になる方法」などを徹底的に解説していきたいと思います。
DMATの看護師になる方法とは?
DMATの看護師になる方法について見る前に、DMATのことを少し説明しておきましょう。
DMATの看護師になりたい
そもそもDMATってなに?
DMAT(ディーマット)は災害派遣医療チームのことで、災害急性期に活動できる機動性を持ったトレーニングを受けた医療チームと定義されています。
1995年1月17日、戦中・戦後を通じて最大の自然災害である「阪神・淡路大震災」が起こりました。死者・行方不明者6,425名 負傷者43,772名と言われています。
この阪神・淡路大震災について初期医療体制の遅れが考えられ、平時の救急医療レベルの医療が提供されていれば救命できたと考えられる、いわば「避けられた災害死」が500名程度存在した可能性があった、と後に報告されています。
この阪神・淡路大震災で災害医療について多くの課題が浮き彫りとなり、この教訓を生かし、各行政機関、消防、警察、自衛隊と連携しながら救助活動と並行し、医師が災害現場で医療を行う必要性が認識されるようになりました。
こうした中、平成17年4月に「日本DMAT」が発足したわけです。
DMATの看護師になりたい
DMATの構成メンバーと役割
日本DMATは全国各地で発足し活動の場を広げていますが、DMATチームの基本的な構成メンバーは、医師・看護師・業務調達員で構成され、1チームは4人ほどで災害発生から約48時間以内に現地に到着し、活動を開始することになっています。
DMATの主な役割
DMATの主な業務は現場での活動、病院支援、域内搬送、後方支援になります。
◉現場での活動
- トリアージやその場での緊急治療など
◉病院支援
- 被災地にある病院でのトリアージや治療の支援(現地の病院でのヘルプ活動)
- 被災地の医療機関の被災状況の確認や支援
◉域内搬送
- 医療資器材・医薬品等の使用状況を把握や調達依頼など
◉後方支援
- 必要な医薬品や被災の移動手段などの確保等
DMATの看護師になりたい
DMAT隊員の看護師に求められること
DMAT隊員の看護師は現地でチームとして活動するだけではなく、現場の医療機関、自衛隊や救急隊員らと共に救助・救命活動に参加することになります。それゆえパニックになることの無い冷静な判断と行動、判断力が必要となります。
現場は医療設備や衛生環境も全く整っていません。その中でできうる限りの医療処置と看護を的確に行っていくことが求められることになります。
現地での看護師の主な業務内容・役割をまとめてみると、
- 災害現場でのトリアージ
- 現地の医療機関での救命活動や治療
- 搬送される患者の付き添い
- 現地での被災者へのメンタルケア
大規模な災害現場では住民らが一斉にパニック状態に陥っている場合が多く、迅速な対応と適切な処置・治療、一刻も早い人命救助が求められます。
目の前の命を救いたくてもチームに危険が及ぶ可能性があれば、冷静に撤退する場面も時にはあるでしょう。DMATに求められる役割は、救命のための訓練された技術はもちろんの事、危険を判断できる能力と柔軟な対応力を持つことでもあるのです。
DMATの看護師になりたい
DMATの看護師隊員になるのにはどうしたら良いの?
結論から言うと、DMATの看護師になるには特別な資格は一切必要ありません。
看護師の資格があれば、誰でも目指せるのです。
ただし条件があり、災害拠点病院に勤務していなければDMAT隊員にはなれないという決まりが新たにできました。災害拠点病院の看護師として従事したのち、2日間の研修を受けDMAT隊員養成研修に合格することが必要です。
そしてDMAT隊員養成研修に合格すると、DMAT隊員として登録され、災害発生時に活動要請がかかるようになります。
自分の勤めている職場が災害拠点病院かどうか分からないという方は職場のHPをチェックしてみましょう。
DMATの看護師になりたい
DMAT隊員になるにはどの診療科で経験を積むのがベスト?
DMATの看護師になる人の多くが救急外来で働いているようです。
やはりDMATは様々な状況や環境の中で臨機応変に対応していかなければならないため、いざという時は自分で判断していくことになります。
被災現場はニュースで見るよりも、はるかに悲惨な現場になることも。過酷な現状の中でも自分の使命と職務を忘れずに全うできる強い精神力が必要になってくるでしょう。
そのことを考えると、やはり救急外来での経験は必須条件に近いのかもしれません。
他にも被災者の方々は外傷を起こしている可能性が非常に高いので、外科や整形外科で経験を積んでおくことも有利になります。また高齢者も多くなる傾向にあるため、内科系の疾患も知識に入れておく必要があります。
できれば、BLSやACLSなどの講習も受けておくと心肺蘇生の必要がある場面で多いに役立つでしょう。
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DMAT隊員になるメリット
DMAT隊員の看護師になるとどのようなメリットがあるのでしょうか?
メリットは2つ挙げられます。
- 災害医療や救急の現場を知ることができる
- 看護師としてのスキルや知識が上がる
DMAT隊員になるメリットを一つずつ詳しく見ていきましょう。
災害医療や救急の現場を知ることができる
DMATの看護師になる最大のメリットは、災害時や事故現場に関する知識と経験、対応力が得られるという点でしょう。
災害や事故はある日突然発生します。そんな予測不可能な現状で、冷静に確実に必要な判断が出来る能力を身に付けることができるようになります。
日本は他の国よりも災害・特に地震が多く災害大国と言われることもありますので、DMATは日本にとって欠くことができないチームといえます。
看護師としてのスキルや知識が上がる
通常の医療現場もとても大変な現場ですが、やはり災害や事故現場での環境はまるで異なります。
その中でとっさの判断力やコミュ二ケーション能力、限られた物資や医療物品の中から出来る限りの治療や看護を施すという技術や能力は、通常の医療現場に戻った際にもとても役立つでしょう。
また、他にもDMAT看護師としての活動や経験を通して災害支援活動に携わる人々や全国各地のDMAT隊員と交流をもつことができます。その結果、連携が密に迅速にできるようになりますし、活動の場も広がることも期待できそうです。
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DMAT隊員になるデメリット
次に、どのようなデメリットがあるのでしょうか?
デメリットは3つ挙げられます。
- 突然の出動要請が来ることがある
- 理想とギャップが生まれる可能性がある
- 慢性期の看護に乏しくなる
DMAT隊員になるデメリットも一つずつ詳しく見ていきましょう。
突然の出動要請が来ることがある
晴れてDMATメンバーに登録されると、突如起こった災害や大事故の現場に突然出動要請されることがあります。災害や事故は予測されるものではないので、どうしても予定通りに物事が進むという訳ではありません。
もちろんDMATは全国各地の災害拠点病院で構成されていますし、他にも声をかけられているメンバーがいるでしょう。そんな時に自分の生活やプライベートを天秤にかけ、出動を躊躇してしまう場面が出てきます。
理想とギャップが生まれる可能性がある
「災害医療を学びたい」「被災地の役に立ちたい!」と決意して災害看護に携わる現場に転職したにも関わらず、夢描いていた理想との違いを感じてしまう人は少なくないようです。
最前線で人命救助がしたい!と意気込んでいたものの、実際に出動要請があり現場に赴いたところ、被災者のメンタルケアや物資の支援に任命され、思い描いていた災害医療ができなかった‥という声を聞いたことがあります。
人命救助も被災者のメンタルケアも物資支援もどれもとても大切な役割ですし、災害看護という点では変わりありません。しかし自分がしたい看護ができなかったということがショックであり、ギャップが生まれることも考えておくべきでしょう。
慢性期の看護に乏しくなる
ここまで書いてきた通り、DMATの活動は最前線の救急医療。治療というよりも人命救助が主な活動、役割になります。
つまり「命を救うことが何よりも最優先事項」ということ。
それゆえにどうしても基礎疾患のある被災者の看護やメンタルケアなどは二の次になりがちです。その部分に視点を持ちにくい状況という点ではデメリットの一つと言えるでしょう。
しかし病棟で求められていることと、DMAT隊員の看護師として求められることのベクトルが全く異なるので、大きなデメリットではないかもしれません。
DMATの看護師になりたい
気になる!DMAT隊員のお給料って?
DMAT隊員の看護師は基本的に災害拠点病院から現地へ派遣される形になりますので、特別手当などは出ないケースも多いようです。通常の病院勤務の看護師と大きな差はないととらえておきましょう。
ゆえにDMAT隊員になれたからといって、劇的に給料がアップするというわけではなさそうです。
しかしDMATメンバーだった経歴があれば長い目でみると、今後の転職活動で給料アップやキャリアアップ、職場からの高評価が得られる可能性は十分にあります。
DMATの看護師になりたい
他にも災害医療に携われる働き方がある
DMATと非常に似ていますが、日本には災害支援ナースという働き方があります。
災害支援ナースもDMATと同様に、日常的に災害医療に携わるのではなく、災害が発生した際に派遣される看護師のことを指します。
災害支援ナースの統括は日本看護協会が行っており、日本看護協会の公式ホームページによると現在日本には約7000人の災害支援ナースが存在しています。
災害支援ナースになるには、以下の項目を満たしていることが必須条件になります。
- 都道府県看護協会の会員であること
- 実務経験が5年以上あること
- 所属施設がある場合には、所属長の許可があること
- 災害支援ナース養成のための研修を受けていること
DMATと災害支援ナースの大きな違いは、DMATは災害から48時間以内に出動するという体制であるのに対して、日本災害支援ナースは災害発生から3日後〜1ヶ月以内に出動するとなっており、派遣の打診があって派遣できるかどうか検討するという点です。
そして災害支援ナースの活動期間は原則として移動日を含めた3泊4日と決められています。
災害支援ナースの他にも「災害専門看護師」という専門看護師の中の資格があります。
災害専門看護師の主な仕事は、災害時マニュアルを作成したり被災地の医療者への教育・指示を行うこと。災害医療に力を入れており全国各地に系列の医療機関をもつ日赤病院では、活躍の幅が広げられそうです。
しかし災害専門看護師になるのはとても難しく長い道のり。災害専門看護師になるには、臨床経験5年間以上を積むこと+大学院卒業+専門看護師の養成講習が必須となります。
DMATと似ている制度ですが、チャレンジしやすいのは、災害専門看護師より災害支援ナースの方でしょう。
DMATの看護師になりたい
DMAT発足後の活動実績
ここでは東京DMATの主な災害対応と活動実績を見ていきたいと思います。
平成7年に起こった阪神淡路大震災、平成12年の日比谷線脱線衝突事故、平成23年のニュージーランド地震、令和元年の台風15号、令和2年の新型コロナウイルスのクルーズ船対応などさまざまな現場で活躍しています。
こうしてみると自然災害時だけでなく、事故現場や海外の災害地へのヘルプなど活躍の場が多岐に渡ることが見て取れます。
他にも2016年に起こった熊本地震では県内外のDMATが157隊も出動し、救助支援や施設のサポートを中心に活動。患者の移送を行うなど迅速な救助支援が行われた実績があります。
DMATの看護師になる方法:まとめ
今回はDMATや災害医療についてお伝えしてきました。
凄惨な場面も多く、想像よりもとても大変な現場だと思いますが、その分非常にやりがいがあり看護師としての意識や価値観までもが変わる仕事だと思います。
気になった方は是非、全国の災害拠点病院や厚労省のDMAT関連のサイトを調べてみてくださいね。
この記事が今後救急医療や災害医療に携わりたいと考えている方の参考になれば幸いです。